秋摩竜太郎(ギター・マガジン)

秋摩竜太郎(ギター・マガジン)

秋摩竜太郎(ギター・マガジン) – ガールズ・ロック・バンド、指先ノハク。08年前進バンド結成、11年に改名&1stミニ・アルバム発売。以降、真空ホロウや赤い公園の企画にも出演。椎名林檎やZAZEN BOYSなどをフェイバリットに掲げる4人組である。judi bola

秋摩竜太郎(ギター・マガジン)

僕が指先ノハクに出会ったのは、確か数年前。ある対バン公演に出演しており、目当ては別のバンドだった。当時はどうしても女性ミュージシャンがカッコ良いと思えない、典型的なガールズ・バンド否定派。壁に寄りかかりながら、可愛い顔した4人組がファッション感覚でバンドなんかやってんじゃねえ、などと思いながら彼女たちが入場するのを見ていた。ところが最初の「放課後」を1小節聴いた瞬間、気付けば最前列へ(実際は列になるほどの人はいなかったが)。裏拍を強調したグルーヴィなリズム、ギター2本の前のめりなカッティング、胸の奥まで穿つ叙情的なメロディ。そして何よりNirvanaなどに代表される、己のすべてをステージに叩きつけるような切迫感があり、虜になってしまったのだ。https://americandreamdrivein.com/

今回発表する『肴~SAKANA~』は、彼女たちにとって初の全国流通盤。前述の「放課後」をはじめ、泣きメロと派手な音色をカリビアン・ドラムに乗せる「なにがし」、音程の起伏と展開が大きく、カオティックな間奏も耳に残る「ゲノオワリ」、全部ブッ飛ばすようなカタルシスのある「行方入り」、妖艶でノリやすい「相席」、演奏のダイナミクスと懐古的な歌詞やコーラス・ワークで聴かせる感動の名曲「どうしようがないこと」、遊び心満点のSE的な「3DK」。新旧の楽曲を織り交ぜた、名刺代わりの渾身作に仕上がった。

初めて観た時から、木村順子(g)と宮腰侑子(b)のプレイアビリティ、そしてフィーリングは同世代で頭抜けていた。特に仕事柄書かせてもらえば、木村順子は世界一好きな女性ギタリストである。そんな中、清水加奈(vo)と竹内裕美子(d)は劣等感を感じる時期があったのではないかと思う。数年前の清水はどこか自信がなく、必死にアイデンティティーを探しているように見えた。しかし、葛藤の末ステージのド真ん中に立つ覚悟と胆力を得た彼女は、いまや楽曲の感情をフルに表現できるボーカリストに成長した。一方、竹内は右膝靭帯の手術のため、約1年間の離脱期間がある。その思いはYouTubeにも残されているが(https://www.youtube.com/watch?v=ywXHZMRFUQ4)、復活後はより竹内らしいドラミングでバンドを支えるようになった。同じように木村も宮腰も、加えてバンド自体も、さまざまなことを乗り越えてきたはず。その結晶が『肴~SAKANA~』であるからこそ、本作には消費物で終わらない深みと説得力がある。

秋摩竜太郎(ギター・マガジン)

彼女たちが一貫して崩さない姿勢は、おそらくおもしろいことをしたいということ。そして同時に、まさに“どうしようがない”ような切なさや哀愁も楽曲から滲み出る。笑顔と涙を届けるロック・バンド、と書いてしまえば何の変哲もないが、そのクオリティは凡百のバンドと一線を画す。指先ノハクは、あなたの人生にとってかけがえのない存在になるかもしれない。だからいま、聴いてほしい。